十割蕎麦がおいしい店 -2-

おいしい十割蕎麦を探して、日本中を旅しました。

東京の繁華街から、田舎の廃村にある蕎麦屋さんまで。

おいしいと噂の蕎麦があると、どこまでも食べに行きました。

十割蕎麦を探す旅を続けて、約40年。

その結果、たどりついたのが、この店です。

みなさんに、お知らせします。

十割蕎麦は大きく5種類に分けられる

その前に、十割蕎麦とは何なのかいうことを、一通り、お話ししておきたいと思います。

十割蕎麦とひとことで言っても、蕎麦の種類は一種類ではありません。

大きく分けて、5種類の十割蕎麦があります。

 

 

【1】「玄挽き」の蕎麦粉で打った十割蕎麦

「玄挽き」とは、黒くて硬い殻に包まれたソバの実を、そのまま石臼にかけて粉にすることをいいます。

石臼を使って蕎麦を製粉する方法としては、最も原始的なやり方だということができます。

昔の農家の人たちは、皆、この方法で蕎麦を粉にしていました。

まだ、ソバの実の殻を、きれいにむく技術が開発されていなかった時代の話です。

玄挽きで作った蕎麦粉で打った蕎麦は、色が黒い麺に仕上がります。

「田舎蕎麦」などと呼ばれる、黒くて太くて、ごわごわした蕎麦が、これです。

味も癖が強くて、独特の味、香りがあります。

 

なぜ、黒くなるかというと、ソバの実を包んでいる黒くて硬い殻まで、石臼で細かく粉砕して、蕎麦粉の中に混ざってしまうからです。

石臼に、ソバの実を殻ごと入れて挽いたら、当然のことながら、殻も一緒に粉になってしまいます。

殻まで引き込んだ、真っ黒い蕎麦。

 

これが十割蕎麦の、ひとつめのパターンです。

【2】「丸抜き」から製粉した蕎麦粉で作った十割蕎麦

「丸抜き」というのは、ソバの実を包んでいる、黒くて硬い殻を取り去った、中身のことです。新蕎麦の時期などは、美しい緑色をしています。

石臼に入れて製粉しても、殻はむいてあるので、黒い粉になることはありません。

きちんと作ると、甘皮の淡い緑色が反映された、いかにも新蕎麦らしい、きれいな麺ができます。

みなさんの記憶の中から、淡い緑色の、おいしかった麺が、浮かび上がってきたでしょうか。

そうです。あれが、丸抜きから作った十割蕎麦なのです。

このようにして作った十割蕎麦は、色も美しいし、香りも味も強く、非常に魅力的です。

たまたま入った蕎麦屋さんで、丸抜きの十割蕎麦を食べて、以来、病みつきになって、蕎麦屋さん巡りが趣味になったという方は、少なくありません。

【3】「丸抜き」の甘皮部分を除去した蕎麦粉で打った十割蕎麦

丸抜きにしたソバの実は、状態が良いと、緑色の甘皮に包まれています。蕎麦の香りは、この甘皮部分に多くあるため、香り高く美味しい蕎麦を作れるか否かは、甘皮をどう生かすかにかかっている、ということも言えます。

でも、新蕎麦を収穫してから時間がたち、ソバの実が段々、古くなってくると、緑色だった甘皮も茶色い色に変化してきます。

そうなると緑の色は失われて、茶色い色の麺になってしまいます。

そのうえ古い甘皮の影響で食感もボソボソしたものになり、甘皮は蕎麦をまずくする要因になってしまうのです。

ですから、甘皮の部分を取り除いて蕎麦粉にするという方法で作った十割蕎麦もあります。

こうすると、でんぷんが中心の蕎麦になるので、白い色の麺になります。

このような蕎麦粉は「一番粉」などと呼ばれる粉に近いものです。

でんぷんが多い蕎麦粉を、十割蕎麦に仕上げるのは、技術的には難しいことですが、上手に作れば、張りのある食感が楽しめる、おいしい蕎麦になるのです。

【4】「さらしな粉」で打った十割蕎麦

ソバの実は、中心部分に、でんぷんが多い構造になっています。

実の中心から外側に行くにつれ、たんぱく質が多くなってきます。甘皮はたんぱく質でできた部分だということができます。

ソバの実の中心部分のでんぷんだけを集めた蕎麦粉が、さらしな粉です。

(3)で説明した白い色の蕎麦より、さらに色の白い麺になります。また、十割蕎麦としてつなげることは難しい蕎麦なので、湯捏ねなど、通常の蕎麦打ちとは、少し違った打ち方をする必要があります。

しかし、これも、高度な技術を持った職人が、ていねいに作ると、すばらしい十割蕎麦になります。

【5】ソバの実の各部分をブレンドした蕎麦粉で打った十割蕎麦

「こういう麺を作りたい」という意図のもとに、でんぷんやたんぱく質の部分を、任意の割合にブレンドした蕎麦粉で打った十割蕎麦が、これです。

蕎麦粉の配合の仕方によっては、様々な麺を作ることができますので、蕎麦を作る人も、食べる人も、楽しめる可能性を持った蕎麦だということができます。

オリジナルのブレンドで、オリジナルの蕎麦を作る。蕎麦好きなら、いつかやってみたい作業ですし、蕎麦を食べることが好きな人にとっても、興味が尽きない世界が広がる蕎麦だということができます。

 

 

以上のように大別できますが、十割蕎麦は、さらに多くの種類に分けることができます。

しかし、ここまでの説明で、おおまかなことは、ご理解いただけたと思います。

 

さて、本題の、おしい十割蕎麦が食べられる店のごあんないです。

 

 

最高の十割蕎麦は、ここにある

 

その店は、茨城県の茨城町という、小さな町にあります。

屋号は『そば処 楓の森』(そばどころ かえでのもり)。

里山のふもとに曲がりくねった道が続き、何軒かの民家が建ち並んだ集落を抜けると、田園地帯に姿をあらわします。

観光地でもなんでもない、小さな小さな普通の町です。なぜ、ここに蕎麦屋を作ったのか、不思議になるような環境です。

 

この店は、蕎麦がわかっている人たちにとっては隠れ家的存在で、あまりひとに教えたがらない店です。

その理由は、混み合うと、自分が食べるのに待たなければならなくなるから。自分が行きたい本当に良い店って、そうですよね。ガイドブックやグルメサイトには、なるべくなら載せたくないものです。

でも、このごろは、段々、知られてきてしまって、駐車場には県外ナンバーの高級車が、何台も並んでいることがあります。

 

『そば処 楓の森』が、普通の店でないことは、小さな門をくぐると、すぐにわかります。

広い庭には、いっぱい木が植えられているのですが、これがすべて楓の木。ご主人が、楓が好きで、店を作るときに山をひとつ買って、その山から気に入った楓の木を、一本、また一本と、ここまで運んできて植えたものなのです。庭は屋号の通り、「楓の森」になっています。

ここまで楓を集めるのに3年かかったということです。

緑の季節もきれいな森ですが、秋になると表情が一変して、すばらしい紅葉を見せてくれます。庭の楓がすべて紅葉し、お店が紅葉に包まれるのです。

こんなお店は、日本中探しても、ほかに見当たりません。

 

続きは、写真をご覧いただきながら、詳しく説明していきましょう。

 

 

(1枚目の写真、『そば処 楓の森の』門と暖簾。)

駐車場から入る門が、こちらです。駐車できる車の台数は、20台くらいでしょうか。日によっては、高級外車が何台も停まっていたりします。遠くから足を運ぶ常連さんが多いです。

(2枚目)

門を入ると、楓が生い茂った「楓の森」の中に入ります。この木々は、店の主人が、店を作る際に植えた木です。季節ごとに、いろいろな野草が花をつけ、とても貴重な植物も見ることができます。

(3枚目)

紅葉のころ、道を歩いて、振り返ると、こんな眺めです。

この風景も、ご馳走のうち。すばらしい前菜です。

(4枚目)

秋田杉や、縄文杉など、良質な木材で作られた店です。木造りの家は中に入ると、ほっと気持ちがなごみます。

(5枚目)

これが、『そば処 楓の森』の十割蕎麦です。淡い緑色をした、美しい蕎麦です。香り、味、食感は、食べたときの楽しみに、書かないでおきます。映画のストーリーを先に読んでしまうのと同じで、楽しみが半減してしまうでしょうから。一口、蕎麦を口に運ぶと、別世界に連れていかれるような気持ちになります。ちなみに、この店のコンセプトは、「劇場としての蕎麦屋」です。蕎麦を食べる行為を通して、蕎麦の中にある物語を楽しんでいただく場にしたいとの思いから、この店が作られました。

ぜひ、足を運んでください。

きっと、感動に出会えます。

【お店の情報】

そば処 楓の森

茨城県東茨城郡茨城町駒場1619

☎︎029-292-5715

 

ホームページ

http://kaede-no-mori.com

 

(注意)

2017年12月25日から2018年3月31日までは冬休みです。

4月1日から営業が再開されます。