十割蕎麦とは何か
十割蕎麦は大きく5種類に分けられる
十割蕎麦とは何なのかいうことを、一通り、お話ししておきたいと思います。
十割蕎麦とひとことで言っても、蕎麦の種類は一種類ではありません。
大きく分けて、5種類の十割蕎麦があります。
【1】「玄挽き」の蕎麦粉で打った十割蕎麦
「玄挽き」とは、黒くて硬い殻に包まれたソバの実を、そのまま石臼にかけて粉にすることをいいます。
石臼を使って蕎麦を製粉する方法としては、最も原始的なやり方だということができます。
昔の農家の人たちは、皆、この方法で蕎麦を粉にしていました。
まだ、ソバの実の殻を、きれいにむく技術が開発されていなかった時代の話です。
玄挽きで作った蕎麦粉で打った蕎麦は、色が黒い麺に仕上がります。
「田舎蕎麦」などと呼ばれる、黒くて太くて、ごわごわした蕎麦が、これです。
味も癖が強くて、独特の味、香りがあります。
なぜ、黒くなるかというと、ソバの実を包んでいる黒くて硬い殻まで、石臼で細かく粉砕して、蕎麦粉の中に混ざってしまうからです。
石臼に、ソバの実を殻ごと入れて挽いたら、当然のことながら、殻も一緒に粉になってしまいます。
殻まで引き込んだ、真っ黒い蕎麦。
これが十割蕎麦の、ひとつめのパターンです。

【2】「丸抜き」から製粉した蕎麦粉で作った十割蕎麦
「丸抜き」というのは、ソバの実を包んでいる、黒くて硬い殻を取り去った、中身のことです。新蕎麦の時期などは、美しい緑色をしています。
石臼に入れて製粉しても、殻はむいてあるので、黒い粉になることはありません。
きちんと作ると、甘皮の淡い緑色が反映された、いかにも新蕎麦らしい、きれいな麺ができます。
みなさんの記憶の中から、淡い緑色の、おいしかった麺が、浮かび上がってきたでしょうか。
そうです。あれが、丸抜きから作った十割蕎麦なのです。
このようにして作った十割蕎麦は、色も美しいし、香りも味も強く、非常に魅力的です。
たまたま入った蕎麦屋さんで、丸抜きの十割蕎麦を食べて、以来、病みつきになって、蕎麦屋さん巡りが趣味になったという方は、少なくありません。

【3】「丸抜き」の甘皮部分を除去した蕎麦粉で打った十割蕎麦
丸抜きにしたソバの実は、状態が良いと、緑色の甘皮に包まれています。蕎麦の香りは、この甘皮部分に多くあるため、香り高く美味しい蕎麦を作れるか否かは、甘皮をどう生かすかにかかっている、ということも言えます。
でも、新蕎麦を収穫してから時間がたち、ソバの実が段々、古くなってくると、緑色だった甘皮も茶色い色に変化してきます。
そうなると緑の色は失われて、茶色い色の麺になってしまいます。
そのうえ古い甘皮の影響で食感もボソボソしたものになり、甘皮は蕎麦をまずくする要因になってしまうのです。
ですから、甘皮の部分を取り除いて蕎麦粉にするという方法で作った十割蕎麦もあります。
こうすると、でんぷんが中心の蕎麦になるので、白い色の麺になります。
このような蕎麦粉は「一番粉」などと呼ばれる粉に近いものです。
でんぷんが多い蕎麦粉を、十割蕎麦に仕上げるのは、技術的には難しいことですが、上手に作れば、張りのある食感が楽しめる、おいしい蕎麦になるのです。

【4】「さらしな粉」で打った十割蕎麦
ソバの実は、中心部分に、でんぷんが多い構造になっています。
実の中心から外側に行くにつれ、たんぱく質が多くなってきます。甘皮はたんぱく質でできた部分だということができます。
ソバの実の中心部分のでんぷんだけを集めた蕎麦粉が、さらしな粉です。
(3)で説明した白い色の蕎麦より、さらに色の白い麺になります。また、十割蕎麦としてつなげることは難しい蕎麦なので、湯捏ねなど、通常の蕎麦打ちとは、少し違った打ち方をする必要があります。
しかし、これも、高度な技術を持った職人が、ていねいに作ると、すばらしい十割蕎麦になります。

【5】ソバの実の各部分をブレンドした蕎麦粉で打った十割蕎麦
「こういう麺を作りたい」という意図のもとに、でんぷんやたんぱく質の部分を、任意の割合にブレンドした蕎麦粉で打った十割蕎麦が、これです。
蕎麦粉の配合の仕方によっては、様々な麺を作ることができますので、蕎麦を作る人も、食べる人も、楽しめる可能性を持った蕎麦だということができます。
オリジナルのブレンドで、オリジナルの蕎麦を作る。蕎麦好きなら、いつかやってみたい作業ですし、蕎麦を食べることが好きな人にとっても、興味が尽きない世界が広がる蕎麦だということができます。
以上のように大別できますが、十割蕎麦は、さらに多くの種類に分けることができます。
しかし、ここまでの説明で、おおまかなことは、ご理解いただけたと思います。
さらに詳しくは、『蕎麦Web』に書きましたので、そちらもご覧ください。